ブランド赤ちゃんデリバリーサービス
人工受精や精子バンクなんて聞いても珍しくもなし、どこまでいっても女性の権利から見て倫理観に外れるでもなく驚くにはあたらないと思っていた自分が甘かった。つい最近近しい友人に起こった出来事なのだが、それを話す前にテレビの報道番組で見てびっくりした話をひとつ。
ニューメキシコ州だかで今実際に法廷で争われている事件らしい。「子供はつくらない」とお互い約束し、女がピルを飲みながらつきあっていた彼女と彼氏に1年前女の赤ん坊が生まれた。「喜ばしいことじゃないか」という人もいるだろうが、なんとこの男、よりによって自分は騙されたと涙ながらに主張し「自分の精子の窃盗罪」と「口頭約束の不履行」を理由に彼女を提訴したというからたまげた。通常、女に赤ん坊が生まれた場合父親は結婚していようがなかろうがその子供が18才になるまでの月づきの養育費をはらうことになっており、今までそれが一般観念化していたように思える。だからもちろん今回のこの父親が「だまされた」といって母親を訴えたケースは米国史上初ということで、全米の注目を集めているという。
そしてインタビューアーが父親に向かって「じゃあ、あなたが彼女と結婚すればいいのではないでしょうか?」と訊くと「ああ、僕は彼女に結婚のオファーはしたよ」とのたまう。それは恋愛によるプロポーズなんてものとはほど遠い「結婚に関する契約条項」という書類を彼女に郵送しただけのものだった。条項その○、女は家事一般(料理、掃除)を行う。その○、男は家、家具の修理を受け持つ、といったビジネス的な契約書に他ならない。「げげげっ、アカンこの男完全にイッちゃってるわ」と確信したところ、やはり女の方も「あんな男と結婚するわけがないでしょう。赤ちゃんは絶対にあいつには渡さないわ」と意気込んでいる。しかも、何をトチ狂ったか誕生後1年経った此の期に及んで男が「赤ん坊の面倒を自分にもみさせろ」と請求しているらしい。その証拠というか男の部屋にはベビーベッドやガラガラなどのオモチャが揃ってる。インタビューアーが「じゃあ、赤ちゃんにプレゼントなどをしているんですね?」ときくと男は「いや、一回もあげたことはない。ホラ、男ってのはプレゼントをするのが苦手だからねえ」とこきやがった。中絶しろと女を脅し、出産にも立ち会わない、精子が盗まれたと訴訟に持ち込み、何ひとつ赤ん坊にプレゼントするわけでもない、あげくの果てに赤ん坊の面倒をみさせろ??どのツラさげてテメーが父親だって言うんだよ、バカタレ。自分がおむつをしめておしゃぶりでもくわえながら自分自身をあやす自慰行為でもしてろって感じ。
そして、最近友人に実際起こった話だが、彼女には数カ月に1回会って食事をする40才すぎの裕福な独身女性の知人がいた。そしてこないだ二人で食事をしている最中にいきなりその女性が「こんなこと言って驚くかもしれないけど、あなたの卵をわけてくれない?」ときたそうだ。私だったら口の中にあったものをすべてブーーッとぶちまけてる。友人があきれて「はぁ?」とききかえすと、今まで自分ひとりでビジネスを成功させてきた知人だが、今回ついに「自分の子供」が欲しくなったという。しかも、ハーフの子供が欲しいと言って白人男性、しかもハーバード大卒男の精子はすでに入手先が決まっており、借り腹の女性も手配されているという、残りのアジア人卵子ドナーとして友人に白羽の矢が当たったというわけだ。
とくに自然受精をかたく信奉している友人は強烈なショックを受けながらも、かろうじて正気を保ちながら「養子養女をとればいいんじゃないですか?」と言ったが、相手はすかさず「いいえ、もういろいろ手配してあるの、私は自分の子供が欲しいの」とかなり真面目に言ったという。自分の子供ときいてあきれる。金の力にあかせてまるでブランドもののバッグや服を買うように選んだ精子と卵子をブレンドして作った受精卵を他人の腹で大きくしたのを買っただけやんけ〜。ここらへんのことはよく分からないのだが、この場合どの時点で誰が子供の母親ってことが明かになるのか?思うに受精卵を金で買った所有主=母親になるんだろうが。
シングルマザー、精子バンク、借り腹制度もまだ納得できる。自分または自分の配偶者の血をひく子供を欲しいという気持ちは強いのだろう。しかし自分の血を一滴もひかない子供を自分の子供だというのなら養子養女と何の変わりがあろうか?ニューヨークだけでも一日も早い養子縁組を望みながら施設で暮らしている子供たちは何百人にものぼるときく。ほとんど全員の子供が「お父さんとお母さんが欲しい」と語り、15才以上の子は半泣きになりながら「もうこんなに大きくなってしまったら縁組みも難しいでしょう。でも暖かい家族を持つ夢は捨てません」と訴えている。養子斡旋の回し者というわけではないが、どうせ他人の子を育てるのならどうしてこの子たちのひとりでも養子養女にもらってやれないのだろうかと疑問に思わずにはいられない。テレビ/映画で活躍するロージー・オドネルもシングルマザーで男の子を養子にもらってかわいがっているのは有名だ。
この女性本人がどう思っているのか知る由もないが(よりによって自分の知人に卵子をくれと頼むことからかなり愚鈍で命に対して無神経なヤツと推察する)、どうも赤ん坊もついにブランド商品デリバリーサービス時代に入ったかと感じてしまった。「ええと、ハーフが欲しいから父親は白人、もちろんハーバード卒よ。母親はかわいい日本人で頼むわ、ハイ、じゃ代金の500万円ね」と注文してくる人数、またそれをビジネスにしていく人数が増えて行きそうで恐い。いや、もう身近な人間に実際出現してきているほどなのだから、ある場所ではすでに一般的になっていそうである。確かに配偶者の選択、結婚という煩わしいこともないし、女にとっては妊娠/出産というリスクも避けて通れて、金さえ払えば自分たちよりIQが高く容姿も良くなる可能性の高い子供を買ってくることができる。
今までこの方面に関しては我ながら保守的ではないと自覚してきたが、ここにきてハタと困ってしまった。夫婦の借り腹制度がよくてなんで独身者だと急に抵抗を感じてしまうのだろうか?違う。そうじゃなくって、やっぱり他人の受精卵を買うという発想が納得できないのだ。なにが人をそうさせるのか?間接的にでも命の創造に関わったという満足が欲しいのか?それとも徹底的に顔と頭の良い子供を持つという欲望のため?じゃあ、買ってきた子供が思うほど顔も頭も良くなかったら、返品するとでも言うのだろうか?
あー、こりゃぜったい出てくるね、顔と頭の良い子供を人種別に人工でばんばん作って売り買いする市場が。SF小説にあった世界が現実になってきている。命に対する意識も変わっていくに違いない。今回の2つの見聴きした出来事は未来では日常生活のひとコマになっているのかもしれない。 |